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優越的地位の濫用・営業秘密について(2021.4.30)

第1 はじめに

お客様のニーズに応えることは、言うまでもなく会社・店舗経営の基本です。他方、様々な事情から、必ずしもそれに応じられないこともあるでしょう。その典型例が「外部の人に秘匿しておきたい情報」(いわば営業機密情報)の開示です。

情報開示を求められたとき、「お客様のご要望に沿う」ことと「会社・店舗の機密を保持する」こととの間で矛盾が生じます。

こうした場合に、どのような見地から交渉に臨むべきでしょうか。本稿では、独占禁止法(以下「独禁法」)と不正競争防止法(以下「不競法」)という2種類の法的観点から、下記の設例を用いつつ、解決に向けた考え方のポイントを解説したいと思います。

 

第2 設例

医療機器販売を主たる業とする甲社は、医療機器の製造及び修理業を営む乙社と長年にわたり取引関係にあった。

この度、甲社が過去に購入した特殊レーザー治療機器αが故障したことから、乙社に対して修理を依頼することを考えた。甲社は、まず乙社から見積書を取得した。この見積書には、人件費のほか、そもそも乙社が代理店からいくらで製品を購入したか(以下「購入品価格」)も記載されていた。なおαは、日本では知名度が低く、同製品を扱う専門商社が珍しいことから、乙社にとって甲社が唯一のαの取引先である。

 ところが、見積書を精査した甲社資材調達部の従業員からは「乙社の購入品価格は高すぎるのではないか」との指摘が相次いだ。同部が、同じく医療機器の製造・販売業を営む丙社との過去の取引記録を確認したところ、乙社見積りの半額程度にすぎないことが判明した。そのような事実が甲社の資材部長兼執行役員にも報告され、やがて「わざわざ乙社に修理に出すよりも、自社で新品を購入した方が安上がりだろう」との意見が経営陣の間でも主流になった。

 そこで甲社は「御社から提出された見積書を拝見したが、弊社内部では、購入品価格が同業他社よりも高いのが問題視されている。そこで、購入品価格の算出根拠を知りたいので、同価格の詳細な内訳(以下「内訳リスト」)を提出してくれないか」「御社とは長い付き合いではあるが、不本意ながら、このままでは御社に修理依頼をするのではなく、自前でαを調達することになりそうだ。」と乙社に伝えた。乙社としては、代理店で購入した製品に諸々の経費や手数料を上乗せして購入品価格を設定している。これらの経費・手数料は、乙社の利益のため、相場の2倍ほど高額に設定してあった。

 内訳リストを甲社に提出すると、乙社への修理依頼がキャンセルされ、将来的に甲乙間の取引関係が解消されるのではないかと乙社は危惧している。内訳リストの提出を円満に拒みたい乙社は、甲社との話合いに際して法的根拠を挙げるのが得策だと考えた。そこで、弁護士に相談を持ち掛けた。

 

第3 解決法

【1】 内訳リストの提出要求行為が優越的地位の濫用(独禁法2条9項5号ハ)にあたり、同法19条に反するとして、同リストの提出を拒絶します。

 

★優越的地位の濫用とは、取引の一方の当事者が自己の取引上の地位が相手方に優越していること(優越的地位)を利用して、正常な商慣習に照らし、不当に不利益を与える行為(濫用行為)を行うことをいいます。独禁法は、これを不公正な取引方法の一類型として禁止しています。

 

要件その1 「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」

この要件をみたす上で、(ア)市場支配的な地位や絶対的に優越した地位であることは要しません。あくまで(イ)取引先との関係で相対的に優越した地位であれば足ります。すなわち、(ウ)甲社が乙社に対して優越的地位あるとは、乙社にとって甲社との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をもたらすため、甲社が乙社にとり著しく不利益な要請等を行っても、乙社がそれを受忍せざるを得ないような場合をいいます。

なお上記判断に当たっては、乙社の甲社に対する取引依存度、甲社の市場における地位、乙社にとって取引先変更可能性、その他(甲社との取引額、甲社の今後の成長可能性、甲乙両社の事業規模の相違等)などを総合考慮して決します。

本件設例で、甲社は、乙社にとって、αの唯一の取引先です。そのことを踏まえ、もし甲乙間の取引継続が困難になることが乙社にとって事業経営上大きな支障となり、甲社が乙社にとって著しく不利益な要請等を行ってもそれを受忍せざるを得ない場合には、要件その1をみたします。

 

要件その2 「利用して」

優越的地位にある行為者(甲社)が、乙社に対して不当に不利益を課して取引を行えば、「利用して」にあたるのが通常です。

この背景には、優越的地位が、日本で広くみられる長期的な取引関係に基づくという認識が存在します。長期的、あるいは継続的取引が広く行われていなければ、取引先との取引を続けることが困難になったとしても、他に取引先を容易に発見することが可能です。そうすると、事業経営上大きな支障をもたらすこともありません。事業者は、相手方の要請等を受け入れるか否か自由に決断できるからです。

本件設例で、甲社と乙社は長年の取引関係にありました。αは、知名度の低い特殊な医療機器ということで、もし甲乙間の取引関係が消滅すれば、乙社は、他に取引先を見つけることが難しそうです。そうであるとすると、要件その2をみたし得るといえます。

 

要件その3 「正常な商慣習」

公正な競争を維持し、かつ促進する立場から認められるものをいいます。現実の商慣習に合致しているからといって、直ちにその行為が正当化されるというわけではありません。

本件設例では、この点について問題はありません。

 

要件その4 「その他取引の相手方に不利益となるように」

取引の相手方に不利益を与える様々な行為を想定した規定です。公取委が発表している優越的地位濫用ガイドラインによると、取引の対価の一方的決定(取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、一方的に著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合)や、やり直しの要請(取引上の地位が相手方に優越している事業者が、正当な理由がないのに、当該取引の相手方から商品を受領したあと等に、取引の相手方に対し、やり直しを要請する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合)等が挙げられています。

これらの行為類型に該当しない場合であっても、取引上の地位が優越している事業者が、一方的に取引の条件を設定・変更・取引を実施するときに、当該取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となります。

本件設例で、内訳リストの提出を要求する行為が乙社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるものといえるかが問題となります。この点については、同一商品をより安く購入するため、見積書で気になった点(内訳)を詳らかにするようリストの提出を求めること自体は、正常な商慣習にも反しませんし、その行為態様が社会通念に反しない限り、乙社に不当な不利益を及ぼすとも言い難いでしょう。

 よって、要件その4をみたすことは困難といえます。

 

要件その5 「不当に」

これは、公正競争阻害性を意味します。取引主体が、取引の許否や取引条件について、自由かつ自主的に判断するのを妨げるおそれがある点に、その意味を見いだせます。対等な立場ではありえないような取引条件を取引先に押し付けることで、当該取引先を競争上不利な立場にするとともに、自らが能率競争によらずに競争業者よりも有利な立場に立つことは、市場における競争の公正性を阻んでいるというわけです。

もっとも本件設例では、顧客たる甲社がより安価で商品を購入したいと考えるのは当然です。むしろ、価格競争を通じて「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」(独禁法1条)という、同法の究極目的に資するといえるでしょう。

よって、「不当」性を認めることはできないと解します。

 以上によると、本件設例で優越的地位の濫用として独禁法19条に違反することを主張することは難しいと解されます。

法的効果

仮に同条違反がいえれば、排除措置命令(20条)や課徴金納付命令(20条の6)の対象となります。

 

【2】 内訳リストが不競法2条6項の「営業秘密」にあたるとして、内訳リストの提出を拒絶します。

 

★「営業秘密」にあたるためには、(1)秘密管理性(秘密として管理されていること)(2)有用性(有用な情報であること)(3)非公知性(公然と知られていないこと)を充足することが必要です。

 

(1)について、従業員や外部者等が管理状況を見た際、秘密として管理していると認識できる状態にあることを意味します。過去の裁判例によると、1.情報にアクセスしている者を制限していること(アクセス制限)2.情報にアクセスした者がそれを秘密であることを認識できること(客観的認識可能性)の両方が必要とされています。

 本件設例における内訳リストは、乙社内部で独自に算出・決定した購入品価格が記載されている以上、管理者以外の者がアクセスすることができず、かつ、客観的にも秘密性が認識可能といえます。

 

(2)について、事業活動に使用されたりすることによって、経費の節約、経営効率の改善等に資するものであることを指します。経済産業省が発表している資料(「営業秘密の保護・活用について 平成29年6月経済産業省 知的財産政策室」)によると、仕入先リストもこれにあたるとされます。

本件設例の内訳リストは、購入品価格の算出根拠を明記したリストであることから、仕入先リスト同様、経済的に有用な情報が記載されています。

 

(3)について、情報の保有者の管理下以外では一般に入手できないことをいいます。

 内訳リストは、購入品価格という乙社の経営上重要事項に係る情報が掲載されていることから、ウェブサイトなどで公にされている内容等とは異なり、一般人が容易に入手することは不可能と考えられます。

したがって、(1)~(3)を充足することから、「営業秘密」にあたるでしょう。

 

 

「営業秘密」にあたる以上、社内従業員ですら持ち出しが厳禁であるから、まして外部の人間たるお客様には提出することはできないという方向で主張するのが得策と考えます。

 

第4 まとめ

以上、設例に基づいて、独禁法及び不競法という2つの競争法の観点から、解決に向けた考え方のポイントを説明してきました。

 “第1 はじめに”でも述べましたとおり、お客様のニーズに応えることと会社等の機密を保持することは、しばしば相反するものです。情報化社会を迎えるなかで、機密を守ることは会社等の重要な責務である一方、お客様のニーズを安易に拒絶することは、これまで築き上げてきた信頼関係を破壊する危険も含んでいます。交渉に際しては、法的整合性に留意しつつも、いわゆるWIN-WINの関係を構築することが肝要といえます。

 

不安・疑問な点がございましたら、競争法分野に強い弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

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