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労務管理の重要性~問題社員への対応~1

1 労務管理の重要性

皆様が所属している「企業」は人と物が有機的に結合したものです。物の管理は比較的簡単ですが、人の管理はとても難しいものです。人は感情をもっておりますし、人の能力を上げてその能力を最大限に引き出すのも、引き出せないのも、教育や上司と部下との関係性いかんによります。一番難しいのは、人と人との有機的な結合ができるかです。上司と部下、同僚同士の間に信頼関係がなくなり、お互いに反発している状態であれば、企業のパフォーマンスは全体として著しく劣ってしまい、自由競争の商圏の中で生き残ることさえ困難になりかねません。

 人、すなわち社員が安心して働くことができ、その能力を最大限に発揮して企業に貢献してもらえるかどうかは、労務管理にかかっており、企業が発展するためには不可欠なものです。

2 問題社員の対応

労務管理の一般論や具体的な方法については、経営の先達の本や講演や経営学の本などにお譲りし(私は、司法試験合格後、早稲田経営学院の成川豊氏の社長室で半年間「鞄持ち」をやらせていただき、経営のイロハを短期間ではありますが、集中的に教えて頂きました。僭越ながらときどき法律以外の経営者的見地でアドバイスすることがございますのでご容赦ください。)、労務管理の中の「問題社員に対する対応」に限定して、お話ししようと思っています。

 労務管理で一番難しいのは問題社員への対応です。社員が何十人も増えていけば、必ずその中に数名は問題社員が発生します。ましてや数人しかスタッフがいないのに問題社員が1人でもいたら、大変なことになります。

(1)問題社員の定義とは

 ここで問題社員の定義が問題となりますが、法律的に厳格な定義はございません。類型的に言えば、

  1. 無断遅刻や早退を繰り返したり
  2. 社内で暴力をふるったり、暴言をはいたり
  3. セクハラ行為をおこなったり
  4. パワハラ行為をおこなったり
  5. 逆に気に入らない人を貶めるために些細な行為をパワハラやコンプライアンス違反で訴えたり
  6. 協調性がなく、チームワークが必要な業務において、協力を拒否したり、モチベーションをさげる言動をおこなったりする行為を繰り返したり
  7. 私生活上の非行が会社の対面を汚したり

する社員です。そういう社員に対して、口頭で何度も注意をあたえても、繰り返し、確信犯的に問題行為を繰り返す人もいます。

 8番目の問題として,能力不足の社員をどうするかという非常に悩ましい問題があります。同じ仕事を与えても、一人だけとても時間がかかり、その結果残業が多くなり、残業代が嵩むことになります。同じ結果あるいは少ない結果しかだせないのに、残業代が多く発生する結果、能力があり早く終える優秀な社員よりも給料が多くなります。そういう事態が分かると、優秀な社員はなんだかばからしくなって、皆定時の時間中に能力を最大限に発揮することを怠り、だらだら行い、残業代を稼ごうと日中サボタージュを行うことが横行します。

 以上のように、問題社員が1人居るだけで、組織は不活性になるので、その対策をきちんと行う必要があります。

(2)問題社員の労務を法律的に見るとどうなる

 問題社員の行為は、法律的にいうと、労働提供について労務を提供しているがその労働の質が不完全であり、不完全履行として債務不履行責任を負っているということになります。民法の原則からすると不完全履行ですので、反対給付の賃金の支払をしなくてもよいということになりますが、労働契約に於いては、労働法の適用によって修正があり、労務を提供している限り原則として全額賃金を支払わなくてならないことになります。

 しかし、不完全履行であることは、間違いないので、きちんと履行してくださいと催告(指導)することが必須です。催告をしても改善が見こめなければ、債務不履行解除(解雇)ということになります。

(3)解雇の制限

 たしかに民法の原則からすると、不完全履行に対してきちんと履行して下さいと催告(指導)しても、改善が見込まれなければ解除(解雇)ができるのですが、労働法の分野に於いては、修正が加わっております。

 それは、解雇権濫用の法理というもので、いわゆる終身雇用制度が根付いた日本的慣行のなかで、昭和50年前半に最高裁判例が打ち立てた法理で、後に平成19年に労働契約法に明文として取り入れられています。

 その内容は、①客観的合理的理由が必要なこと②相当性があることの二つの要件を満たさないと解雇は無効だという法理です。

したがって、解雇するには客観的に合理性のある根拠即ち、ささいな指導違反だけではたりず、能力不足の場合であれば、単に他の人と同じにやれと言うだけでは足りず、きちんと能力を補う教育などを通じて、能力を引き出す努力を経営者側がしたにもかかわらず、労働者側で、努力を怠ったり、指導に従わなかったりしたというような客観的に合理的根拠があることが必要ということになります。

 また、「相当性」は、その人だけを狙い撃ちにしているのではなく他の人も同じように違反した場合に解雇すること、また、非違行為があったとしても、解雇に相当する程重要な非違行為かということなどが判断要素となってきます。いずれも問題となった場合に個別具体的に判断されます。

(4)結論として

そうすると、労務管理において、簡単に解雇ができませんので、不完全履行に対してきちんと履行して下さいという催告(指導)がとても重要になってきます。

 そして、その催告(指導)をしたという事実を客観的に証拠として残しておき、その積み重ねせで、ようやく解雇ができることになります。

 他にも、能力不足の人を雇わないようにするために、試用期間を設けてきちんと能力のある人を採用していくということも重要です。

 

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