弁護士コラム

家族なのに相続できない?推定相続人の廃除について(2020.5.28)

1 はじめに

 人が亡くなった場合(以下、この亡くなった人を「被相続人」といいます。)、その方の配偶者や子ども(以下、これらの人達を「推定相続人」といいます。)が、相続人となれることをご存じの方も多いかと思います。さらに発展して、推定相続人には遺留分が認められているため(兄弟姉妹を除く、詳しくは遺留分の記事をご参照ください。)、幾分かは相続する権利があることもご存じの方もいらっしゃると思います。

 では、どうしても推定相続人に財産を相続させたくない場合はどうすれば良いのでしょうか。本稿では、このような場合に利用できる「推定相続人の廃除」について述べていきたいと思います。

 

2 制度の概要

 推定相続人に廃除については、民法892条と893条に規定されています。

 892条は、被相続人が存命の場合の手続きです。家庭裁判所に推定相続人の廃除をしたい旨申立てる方法によって行ないます(もちろん弁護士が代理人として代わりに行なうことも可能です。)。

 893条は、892条の手続きを遺言で行なう方法です。遺言に推定相続人を廃除したい旨記載し、遺言執行者(被相続人の遺言の内容(相続財産の分配など)を実現する者で、被相続人が指定できます。)が被相続人の死後に家庭裁判所へ申立の手続きを行ないます。

 裁判所に申立を行なうと、裁判所において、申立人と推定相続人の意見聴取が行なわれます。その結果、3で述べる要件を満たすと裁判所が判断すると廃除の決定がなされます。

892条と893条の方法は、家庭裁判所への申立という点では同じであり、被相続人の存命の有無、申立人が誰になるかくらいの違いしかありません。

ただ、893条の方法は、被相続人が亡くなった後に行うものなので、上記の意見聴取の際に、意志や事実の確認が行ないにくいというデメリットがあります。「死人に口なし」という言葉があるように、生前に行える892条の手続きをおすすめします。

 

3 廃除の要件

 廃除の要件は①推定相続人が被相続人に対して虐待をし、又は重大な侮辱を加えたこと②推定相続人に著しい非行があったことのどちらかが認められることが必要です。

①について

 虐待は、被相続人に身体的精神的苦痛を与えることを言い、侮辱は、被相続人の名誉や名誉感情を毀損する者を指します。

 これだけではピンとこないかもしれませんが、推定相続人と被相続人との家族的共同生活関係が破壊され。その修復が著しく困難にする行為であればこれにあたると考えられています。これは相当ハードルが高い要件です。

 例えば、日常的に暴力を振るうなどしていた場合には認められやすいですが、暴力を振るったとしても、それが一時の激情によるものである場合は否定されることもあります。 

②について

 非行とは、社会的に非難されるような違法ないし不当な行為を指します。

 例えば、繰り返し暴れ回る、脅迫や強要を行なうと言った場合には、これが認められやすいですが、単なる素行不良であったり、被相続人に非行の理由があったりする場合には認められないこともあります。こちらも相当ハードルが高い要件です。

 ①②は重なることもありますが、いずれにしても、被相続人がそのように思っているだけでは足りず、証拠に基づいて客観的にこれが証明される必要があります。

4 弁護士を就けるメリット

 3で述べたように、推定相続人の廃除の要件は抽象的であり、被相続人の意志だけで簡単に決まるものではありません。要件に該当するのか、それは証拠に基づいているのかについて詳細に吟味する必要があり、これは正に弁護士の職務であると言えます。

 逆に相続人から廃除されそうな場合であっても防御のために、弁護士を就けることも非常に有益であると考えます。

 

1628676162867616286761628676162867616286761628676