弁護士コラム

証拠保全(2020.6.11)

1 証拠保全とは

証拠保全とは、訴訟を提起する前又は訴訟を提起した後、ある事実についての証拠をあらかじめ調べておき、裁判における事実の認定に役立たせるための手続です。

証拠保全は、訴訟での本来の証拠調べの時期まで待っていたのでは、その証拠の取り調べができないかまたは困難になる事情のある証拠についてなされる証拠調べ手続きです。典型的な例としては、医療過誤のような場合です。患者やご遺族の方が病院側の医療ミスを追及しようとする場合、治療経過などについての客観的な資料(カルテや看護記録等)の多くは病院側に保管されており、病院側にミスがあったのか判断ができません。そこで、このような場合、カルテなどの資料を獲得するために証拠保全を利用することが広く行われています。

 

2 証拠保全の申立

  証拠保全は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情がある場合に認められます。これは、医療過誤を例にとると、カルテや看護記録が捨てられてしまったり、改ざんされてしまったりするおそれがあるなど、証拠の取り調べができなくなる場合や、現状が変更されてしまうおそれのあるような場合をいいます。

 

3 証拠保全の実施

  証拠保全が申し立てられた場合、裁判所が申立の要件を調査し、要件が充たされていると判断する場合は、証拠保全の決定が出され、証拠保全手続が実施されることになります。

  実施にあたり、決定書や呼出状を相手に送達して、証拠保全を実施することを相手に知らせる必要があります。ただし、証拠が改ざんされるおそれがある場合には、当日の開始直前(1時間前~数時間前)に決定書等が相手に送達されることになるので、相手からすると、改ざんするための時間的な余裕もなく、証拠保全が実施されることになります。

  相手への送達が確認できると、裁判官、書記官(裁判所の職員)、証拠保全の申立人(及びその代理人)が実際に資料の保管されている場所に行き、相手に資料の提示を求めます。相手から提示された資料はコピーをとったり、カメラで写真に撮ったりすることで証拠化することになります。この時、例えば、カルテ等に修正液が使われている部分があったり、その他不自然な部分があったりする場合は、その事実も裁判官に記録化してもらうことができます。

  その後、得られた証拠をもとに、そもそも訴訟を提起するかどうかや、訴訟でどのような主張をするかを検討することになります。

 

このように、証拠保全は、相手側に多くの証拠が握られている場合にその証拠を獲得するために有効な手続です。

もっとも、申立書の記載が不十分だと裁判所に決定を出してもらえませんし、ある資料が証拠保全の対象になるかについて疑義が生じることもありますので、まずは、弁護士にご相談ください。

 

弁護士 佐藤信悟

 

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