弁護士コラム

財産開示期日不出頭による刑事罰と実効性の担保について

「交通事故の損害賠償を加害者に直接請求するため訴訟を提起したが、判決が出ても加害者が支払う気配が無い!」
「手形が不渡りとなり、取立訴訟を提起して一旦和解したが、結局相手から支払いがなされない!」

ということが起こった場合、次に起こすべき行動としてどのようなステップがあるでしょうか。
被害を被った立場からすれば本当に腹立たしい事ではありますが、賠償義務や支払い義務を持ちながら、それを正当な理由もなく履行しないケースは決して珍しくありません。

このような場合、裁判所の判決や調書をもとに、「強制執行」という手続きを行うことが可能です。
強制執行とは、賠償義務や弁済義務を履行しない人の財産を強制的に取り上げ、その中から賠償や弁済を図ってもらう法的手続きです。例えば、相手の預金口座などが分かればその口座のお金を、勤め先が分かればその給料を差押えるのが一般的です。

しかし、強制執行においては、相手が所有する財産を特定して差し押さえなければなりません。すなわち、預金口座にしても、どの金融機関に口座を持っているか(さらにはその口座には十分な残高があるのか)とか、給料を差し押さえるにしても当然ながら相手の勤め先などが分からないといけません。この点は、一般の方にはなかなか把握が難しい部分です。

相手の財産を把握するための1つの手続き方法として、「財産開示手続」というものがあります。
財産開示手続とは、債権者の権利実現の観点から、債務者の財産に関する情報を取得するための手続きであり、平成15年の改正から創設されたものです。手続の大まかな流れとしては以下の通りです。

  1. 申立権者による財産開示手続実施申立て
  2. 執行裁判所が実施要件を審査し、実施決定を行う(要件を充足しない場合は却下)
  3. 執行裁判所が財産開示期日を指定し、申立人及び開示義務者(債務者)を呼び出すとともに、期限を定め開示義務者に財産目録の提出を求める
  4. 期日当日、申立人及び開示義務者が出頭。開示義務者は、期日時点の財産を開示しなければならない

 

なお、申立権者の要件や、実施決定の要件など、申し立てにあたって注意すべき点が多くありますが、本記事における主題ではありませんので割愛いたします。

さて、ここからが本題です。

財産開示手続は、債権者が債務者の財産を把握するための方策として重宝され得るものですが、一方で債務者が期日の呼び出しなどに何ら反応しない場合があります。理由はどうあれ、自分の財産が取られようとしているのに、わざわざその呼び出しを受けて出向く必要があるのか…と考える債務者も少なくないはずです。せっかく債権者が財産開示手続を利用しても、債務者が無反応であれば財産の把握は功を奏しません

そこで、財産開示手続においては、債務者が正当な理由なく財産開示期日に出頭しなかった場合や、財産開示期日において虚偽の陳述をした場合において、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されています。
平成15年改正の際の創設時には30万円以下の過料が定められていましたが、この制裁が非常に弱いものでありました。100万円あるいは1000万円程度の債務を抱えている人からすると、30万円以下の過料が科されることのデメリットが非常に弱いのではという指摘もありました。それ故、令和2年4月の改正民事執行法より上記のような刑事罰が設けられることとなった訳です。

刑事罰が科されると、対象者にはいわゆる前科が付くことになります。刑罰の重さは関係ありません。前科が付くと、本籍地の市区町村に備え付けられる犯罪人名簿に一定期間記録されたり、資格の取得や許認可申請等において制限を受ける場合があったり、一定の職に就くことが出来なくなる場合があったりと、多くのデメリットがあるため、一定の強制力を生むものにはなり得ると考えられています。

では、果たして実効性はあるのでしょうか?一定の強制力を生むものにはなり得ても、ただの脅し文句にすぎない状態では結局意味がありません。ここでは、実際に刑事罰が科されるまでの流れを踏まえて考えていきたいと思います。

その1:警察に告訴・告発を行う

大まかな流れとしては、

となりますが、警察への告訴・告発がその出発地点となります。
問題は誰が告訴・告発を行うのか?というところです。

 

中には、「裁判所が告発してくれるのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、基本的にそれが全く望めないのが現状です
この問題は財産開示期日不出頭や虚偽陳述に対する罰則が過料であった頃からあったとされます。
改めてこれらの違反行為が法でどのように規定されているのか確認すると、

  • 財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者
  • 正当な理由なく(割愛)陳述すべき事項について陳述せず、又は虚偽の陳述をしたもの

 

と規定されています。前半の財産開示期日不出頭については、「正当な理由なく」という部分がネックであり、正当な理由が無かったのかどうかを裏付ける必要があります。この点につき、裁判所には調査権限がないことから不出頭の理由を把握できず、過料を科すことができなかったのではないかという指摘がなされています。こういった理由は改正後の告発についても同様であると考えられます。こういったことから、裁判所による告発は全く期待できない状況となっています。

そうなると、もはや被害者たる債権者自身で告訴を行うしかないことになりますが、一般の方が要件に気を付けながら告訴状を作成し、警察を相手に提出し、受理されるようになるには、正直に申し上げて相当なハードルがあります。もちろん告訴状の作成や警察・検察相手の交渉等を弁護士に依頼することも可能ですが、相応の弁護士費用がかかるため、さらに費用が嵩むとということになってしまいます。

その2:警察で告訴状を受理し、一次捜査を行う

告訴状を警察に提出した場合、警察は告訴状を受理し、告訴状の内容に関する捜査を尽くすことになります。

ここで、警察が告訴状を受理する義務があるのかという問題が生じます。
まず、刑事訴訟法上では、受理する義務は定められていません。ただし、法律ではないものの、内部規則たる犯罪捜査規範63条には、「告訴・告発は、受理しなければならない」と定められています。また、裁判例において、「正当な理由が無い限り、検察官や司法警察員は、告訴・告発を受理する義務を負う」と示されたものもあります。

つまり一般的には、警察等は告訴・告発を受理する義務があると考えられる訳ですが、現実には、告訴が行われても受理されないケースが少なくありません。なお、これは決して本件の民事執行法違反に限った話ではなく、告訴全体における問題点です。

よくある警察が受理を拒む理由としては、

  1. 疎明資料が十分にそろっていない
  2. 他の警察署が主となって捜査した方が効率的である
  3. 犯罪に該当しない
  4. 民事的手段により解決を図れるから警察は介入しない
  5. 被害が軽微である

 

というものがあるようですが、いずれにしても告訴・告発を拒む正当な理由にはなり得ません
最も、この問題は決して真新しいものではなく、従来から存在している問題のようで、「告訴・告発センター」なる専務部門窓口を設置したり、警察庁が通達を出したりと、解決に向けた取り組みは行われているようです。

本件のような民事執行法違反に基づく告訴がどの程度行われ、そのうちどの程度が受理され、または不受理とされたのかというところまではどうしても分かりませんが、様々な記事を拝見すると、どうにも「被害が軽微である」として民事執行法違反自体が軽視されているような傾向が拭えないところです。

その3:検察に送致し、検察が二次捜査のち、処分を決定する

警察における一次捜査が完了すると、警察は事件を検察官に送致することになります。送致とは、簡単に言うと事件を検察に引き継ぐことです。被疑者を起訴処分とするか、不起訴処分とするかの決定は、検察官にのみ与えられている権限です。
検察官は、被疑者が罪を犯したとの疑いがない、あるいは十分でないと判断する場合の他、嫌疑が十分あっても、犯人の性格や年齢・境遇・犯罪の軽重及び情状・犯罪後の情況といった諸般の事情に照らして、あえて起訴する必要はないと判断する場合があります。諸般の事情の内の「情状」や「犯罪後の情況」は、例えば告訴・告発した後に示談が成立した場合なども含まれています。債権者としては起訴処分を期待するものの、検察官が諸般の事情を考慮して不起訴処分とする場合も十分にあります。なかには、処分の判断云々の前に、送致の段階で検察官から「微罪だから取り下げてほしい」と言われたケースもあるようです

その4:不起訴処分に不服の場合は検察審査会への申立てを

定かではありませんが、民事執行法違反で検察に送致されたとしても、大半の事案は不起訴処分となってしまっているようです。検察の不起訴処分に不服がある場合、被害者や告訴・告発人は検察審査会への審査請求を申し立てることができます
検察審査会は選挙権を有する国民の中からくじで選ばれた11人の検察審査員で構成され、検察官が不起訴と判断した事案についての良し悪しを審査しています。

※検察審査会については、弊所コラムの別ページでも解説させていただいています。ぜひ併せてご覧ください。
⇒「検察審査会とは??(最高裁判所発行パンフレット「検察審査会Q&A」より)

検察審査会の流れは以下の通りです。

流れの中での大きな特徴は、検察審査会議が二段階で構成されている点です。第1段階目の検察審査会議で起訴相当という議決が行われた場合、検察は再度の処分を決定するため種々の捜査を行うことになります。その結果として再度不起訴処分とした(もしくは法定期間(原則3ヶ月)内に処分しない)場合には、第2段階目の検察審査会議が行われますが、ここでも起訴相当(起訴議決)と判断された場合には、検察の判断に関わらず起訴(強制起訴)されることになります。起訴議決には法的拘束力があるため、第2段階目の審査を行う場合には、より慎重かつ適正な判断がなされるよう、審査補助員の委嘱が行われたり、起訴議決前に検察官に意見を述べる機会を与えたりすることが義務付けられています。

読売新聞オンラインにおける令和4年8月17日付けの記事では、「暴行でけがを負わせた相手方への賠償金支払いに応じず、財産開示期日にも出頭しなかったとして民事執行法違反の疑いで書類送検されたものの、大阪地検が不起訴処分とした加害者の男性(債務者)に対し、大阪第4検察審査会が「起訴相当」と議決したことがわかった」と報じられています。
記事URL:https://www.yomiuri.co.jp/national/20220817-OYT1T50067/

この報道は恐らく、第1段階目の検察審査会議の議決だと思われますが、「不起訴には疑義があり、国民の常識で考えると刑事責任は厳しく追及されるべきだ」、「法が適用されなければ、改正の意義が損なわれる」といった言及がなされています。先に述べた通り、検察審査会の審査員は国民の中から選ばれており、議決には国民感情が大きく影響するものと思われます。実際には、検察の再捜査を経ていずれの処分が下されたか…というところになりますが、この議決が同様の事件に良い影響を及ぼすことを願って止みません

ここまでの流れを説明して今一度思うことは、「なぜ被害者がここまで苦労しなればならないのか」という点です。「逃げ得は許さない」という信念で法改正はなされたものの、その実効性が果たして担保されているのか、単なる脅し文句となっていないかどうかについては、大きな疑問が残ります。しかも、実際に財産開示期日不出頭あるいは虚偽陳述を行った債務者に対して刑事罰が科されたとしても、大前提としてそれは債権者の真の願いと直結するものではありません
とはいうものの、改正法に基づいた告訴及び告発を受け、実際に警察や検察の捜査が行われたり、実際に起訴されたり、あるいは不起訴処分であっても検察審査会で起訴相当とされたりと、世間に周知されることで僅かではありますが前進していることもまた事実です。

当事務所においても、一弁護士事務所として、不誠実な債務者に対し厳しい対応を行っていくことを今一度心がけてまいります。

債権回収・強制執行等の手続きをぜひご依頼ください!

債権回収やそれに伴う強制執行の手続きは、一般の方からすると非常に難しい部分も多いものです。例えば、強制執行の前身として債務者の財産を把握することも考えられますが、個人情報などプライバシーの関係から、一般の方が調査して把握するには方法がかなり限られてしまいます。一方、弁護士は、弁護士会照会や職務上請求といった特別の調査力を用いて、一般の方の力が及びにくい部分の調査まで行うことが可能です。また、強制執行を始めとする民事執行手続きについても多く取り扱っていることから、申立て等を迅速に進めることが可能です。さらには、すでに述べている通り、民事執行法違反による刑事告訴についても、弁護士が主体となって要点を抑えて行うことで受理の確率を限りなく上げることが可能です。

独りで悩まず、まずはご相談だけでもご検討ください。

 

 

 

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