弁護士コラム

ステルスマーケティングの法的問題

1 はじめに

 ステルスマーケティング(以下「ステマ」)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ステマとは、「消費者に宣伝と気づかれないようにされる宣伝行為」(平成27年 東京地裁 註)と定義されます。いわゆる「サクラ」や「やらせ」も、ステマの一類型です。

 過去には、飲食店レビューサイトで好意的な口コミを書くことをビジネスとする業者に多くの飲食店が依頼していた事例や、インターネット・オークションで落札できない仕組みにもかかわらず、高額商品を格安で落札購入した旨のブログを投稿していた芸能人の事例などが、ステマとして社会問題化しました。最近では、ユーチューバーが商品紹介をするなかでステマを指摘されることも少なくありません。

 日本におけるLINEやTwitter、Instagram、YouTube等のSNSの普及率は、約80%となっています(株式会社ICT総研「2020年度 SNS利用動向に関する調査」)。今後、SNSが一層普及するのに伴い、自らが意図しない形でステマに関与することになり、法人・個人を問わず法的責任を追及される危険は高まっていくと予想されます。

そこで本稿では、ステマをめぐる法的問題について重要なポイントを整理し、どのような行為がステマにあたり、いかなる責任が発生するのか確認していきたいと思います。

註:ただし、景表法違反といえるためには「消費者に宣伝と気付かれないように宣伝行為を行う」だけでは足りず、あくまで優良誤認にあたることが必要です(後記参照)。

2 不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」)

行政上の処分

景表法は、優良誤認(5条1号)にあたる不当表示を禁止しています。これに該当したときは、消費者庁等は、資料提出要求や措置命令を行うことができる(7条)としています。措置命令が下った場合、原則として課徴金が課されます。具体的には、不当表示の対象となった商品やサービスの売上額の3%の課徴金が課されます。課徴金の算定期間は、最長で3年分です(8条)。

景表法5条1号は、以下のとおり規定しています。

第5条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

1 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの(下線筆者)

「著しく」とは、社会的に許される限度を超えた誇張ないし誇大を意味します(平成13年 東京高裁)。すなわち、一般消費者が、本来の品質等と表示された品質等が違うことを事前に認識していたら、取引することはなかっただろうといえる程度の誇張・誇大です。単に事実と表示とが不一致であるだけでは景表法違反にはあたりません。宣伝等をするにあたって、ある程度の誇張が含まれるのはやむを得ないでしょうが、社会的に許されないレベルの誇張・誇大をしたときは違法となるわけです。

また、景表法はあらゆる商品・サービスを規制の対象としています。通常、消費者は多様な商品・サービスを購入することから、商品等の種類によって規制範囲を区別する理由はないからです。

そして「誤認」とは、実際のものと、一般消費者が当該表示から受ける印象との間に差が生じる可能性が高いといえれば足り、実際に一般消費者の誤認が生じたことまでは要求されません(平成11年 公取委)。

 なお、故意・過失は不要です。また、一般消費者という一律かつ不変の存在があるわけではなく、あくまで個別のケースに即して検討することが肝要です。

これらをまとめると、競合他社の商品・サービスよりも劣っているのに、一般消費者が誤認するくらい質を偽って自社の商品・サービスが特に優れているかのように見せかける行為が、優良誤認にあたります。

 良質な商品やサービスを購入したい消費者に対し、実際よりよく見せかけた表示が行われると、低質な商品・サービスを買うことにつながり、ひいては消費者に不利益を及ぼすおそれがあります。このような事態から消費者を保護すべく、上記景表法の規定が置かれました。要するに、自主的かつ合理的に良質な商品・サービスを選べるようにする点に、景表法の趣旨があるわけです。

刑事上の処分

 事業者が措置命令に従わなかったときには、「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科されます(36条)。加えて、措置命令に従わない事業者(法人、自然人または法人でない団体)は、違反行為者とともにも、3億円以下の罰金が科されます(38条)。また、措置命令によって報告義務が課せられた場合、同義務に従わなかったときには、「1年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科されます(37条)。措置命令に従わない事業者(法人、自然人または法人でない団体)は、違反行為者とともに、「1年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科されます(38条)。さらに、措置命令違反の計画や違反行為を知って、必要な措置を講じなかった法人の代表者などに対しても、300万円以下の罰金が科される可能性があります(39条、40条)。

民事上の責任

 優良誤認について、適格消費者団体から差止請求をされることがあります(30条)。適格消費者団体とは、不特定多数の消費者の利益のために、事業者に対して不当な行為の停止や予防を請求することが認められている団体です。「特定非営利活動法人消費者機構日本」「公益社団法人全国消費生活相談員協会」等が適格消費者団体に該当します。

 なお、景表法上の責任ではありませんが、ステマをした場合、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負うことがあります。裁判例(昭和62年 大阪地裁)でも、詐欺的行為をした会社のパンフレットに、メッセージとして当該会社とその取り扱う商品を紹介・推薦をした俳優に対し、損害賠償責任を認めています。

もっとも、上記の景表法の規定は、必ずしもステマを対象としたものではありません。そこで、以下で説明するガイドラインが基準として参考になります。

3 消費者庁のガイドライン

 平成24年5月、消費者庁は、景表法ガイドラインを一部改訂する形で、ステマの手法を詳細に解説しました。

 このガイドラインでは、口コミサイトについて、商品やサービスを提供する事業者が、自己ないし第三者に依頼して口コミ情報を掲載し、それが実際の商品やサービスよりも有利であると誤認されるものである場合には、景表法上の不当表示として問題となるとしていました。同月の改訂ではさらに、商品やサービスを提供する店舗経営者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼して口コミを多く書き込ませて評価を高くし、あたかも多数の一般消費者から高評価を受けているかのように見せることを、優良誤認としています。

 要するに、高評価が多くない商品やサービスを多いかのごとく誤解させる表示が、優良誤認にあたると明らかにしたことになります。依然、具体的な表示が景表法に違反するか否かは個別の事案ごとに判断されることに変わりはありませんが、行政による一定の指針が示されたことは、ステマ理解のうえで大きな一歩といえるでしょう。

4 軽犯罪法

 ステマは「人を欺き、又は誤解させるような事実を挙げて広告をした」(軽犯罪法1条34号)として、拘留又は科料に処せられることがあります。拘留とは、最長で29日間、刑事施設で拘置する刑罰をいい、科料とは、1,000円以上1万円未満の金銭の支払いを命じる刑罰をいいます。

「軽」犯罪法違反とはいえ、有罪判決が下されれば前科がつくことに変わりありません。また、犯罪の事実がインターネットで拡散され、半永久的にその記録が残存する危険もあり(デジタルタトゥー)、その不利益の重大性は看過できないものがあるでしょう。

5 まとめ

 SNS社会において、ステマの危険は極めて身近なものとなりました。影響力のある著名人がSNSやブログで商品等を紹介することで一般的な企業CMよりも宣伝効果が大きくなり得ることから、つい軽い気持ちでステマに手を出してしまいがちです。

 しかしながら、前述したとおり、ステマをした者に対しては様々な法的責任を課せられます。仮に一般消費者は欺けたとしても、同業者に見抜かれ、批判にさらされることはあります。ステマは業界全体の信用を毀損し得る行為である以上、同業者から厳しい目を向けられることは必至です。「巧くやればどうせバレない」は通用しません。また、業者から声を掛けられる形で、いわゆるインフルエンサー(芸能人や人気ユーチューバー、ブロガー、インスタグラマー等)が、知らず知らずのうちにステマに手を染めてしまうケースもあり得ます。

なお、たとえそのステマ行為が法律に違反しなくとも、道義的・倫理的責任を負うことに変わりありません。

 

不安・疑問な点がございましたら、競争法や刑事法分野に強い弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

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